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5月16日(土)、原画展を開催中の絵本「ことり」(まど・みちお/詩)の作者である、絵本作家・銅版画家の南塚直子さんをお迎えして、お話会(ギャラリートーク)がおこなわれました。最初に「ことり」の作品紹介として、7分間ほどの朗読映像を楽しんでいただいた後、この絵本の背景や、詩人のまど・みちおさんのことから、静かにお話を始められました。まどさんは、昨年2月に、惜しまれつつも104歳で亡くなられましたが、詩集の絵本を作るにあたって、初めてまどさんとお会いになられた時のお話をはじめ、様々なエピソードから、その謙虚で優しい、そしてユーモアに溢れるお人柄が偲ばれました。中でも印象に残ったのは、まどさんの世界観のお話でした。まどさんによると、「あらゆる生き物は、その生き物に生まれてきたことを喜んでいる」のだそうです。そしてそのお考えから、キリスト教(=人間は神の子だけれども、他の生き物はそうではない)をやめられたとのことでした。南塚さんは、そのまどさんの世界観を「いきもののくに」や「くまさん」の詩を紹介されながら、とても分かりやすく説明してくださいました。「みんなそれぞれ違っていていい」・・・私達がよく耳にする言葉ですが、競争が激しくゆとりのない現実の社会では、どこか陳腐で上滑りして響くのに対して、まどさんの易しい(優しい)語り口の言葉で綴られると、すっと心の奥深くに届くように思いました。もともと、まどさんと南塚さんによる詩の絵本シリーズは、3部作で終わる予定だったらしいのですが、4作目の「ことり」には、どちらかと言うと大人の読者に向けて届けたいと、南塚さんが心の中でずっと温めていた詩が収められたそうです。中でも「りんご」の詩の深い世界を絵にするに当たっては、大変な苦労をされたとのことでした。

 

お話の後半は、銅版画との出会い~ハンガリー留学~今学ばれている陶板のこと、とこれまでの豊かなキャリアを振り返りながら、これからの夢などを生き生きと語られました。もともと油絵を描いておられたという南塚さん。本格的に絵を志されたのは比較的遅かったらしいのですが、銅版画というものに出会い、それが絵本の世界と結びついて、数々の名作を生みだしてこられました。南塚さんの銅版画は、一版多色刷という手法で、一枚の版から刷れる枚数が大変限られているとのこと。日本でも大変珍しいやり方だそうですが、納得のいく絵本の原画が一枚完成すればよいという南塚さんにとっては、まさにぴったりの方法で、どちらかと言うとモノクロに近い色彩が多い銅版画の世界の中で、鮮やかな色彩を特色とするやり方は、絵本との相性が非常によかったようです。

 

現在は京都嵯峨芸術大学に社会人留学をして、陶板の制作をされている南塚さん。きっかけは、原因不明の体の激しい痛みに何年も悩まされ続けていたのが、ある検査で病気が見つかり、それを手術で克服したことからでした。改めて「生かされている」喜びと感謝の気持ちでいっぱいになった時、ハンガリー留学当時、とても興味を持った焼き物(陶芸)の世界にもう一度飛び込んでみたくなったそうです。これまで、平面の中で自分の世界を表現してこられた南塚さんにとって、凹凸のある陶板に、銅版画の技法を用いて絵を描く作業は、本当に新鮮で魅力的に思えるようで、実際の美しい作品をいくつか見せてくださいました(=写真)。2月の個展(@京都)に続き、今度は東京でも個展が予定されているそうです。

 

あっという間の一時間でしたが、ご病気などの苦労を乗り越えて、現在も新しい世界に挑まれている南塚さんのお話は、本当に生き生きとしていて、聴き手の私達にとってもとても励ましになる内容でした。お話の後のティータイム/サイン会では、南塚さんの絵本にサインや可愛いイラストを入れていただきながら、それぞれにお話を楽しんでおられました。「うさぎのくれたバレエシューズ」をはじめ、ロングセラーや人気作品も多い南塚さんだけあって、作品にまつわる思い出話にも花が咲いたようです。ギャラリートークという形のイベントは初めてでしたが、絵本を通じて、その作り手と読み手の心がひとつになる・・・そんなかけがえのない時間だったと思います。人前で話されるのはまだ2度目という機会にもかかわらず、気さくで温かいお人柄で、とても内容の濃いお話を聞かせてくださった南塚さん、またお忙しい中ご来場くださり、熱心にお話に耳を傾けてくださった皆様、本当に有難うございました。

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2024.12.06 Friday